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シカゴ発・アメリカ郊外生活

“夏はプロ野球選手、冬はアメフト選手”を生み出す、
アメリカの体育事情【vol.5】

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 「体育」と聞いて、あなたはまず何を思い浮かべますか?
私の頭に浮かんだのは、跳び箱、マット運動、鉄棒、100(50)メートル走、水泳、リレー、体力測定、ソフトボール・・・と、見事に小学校の授業で受けた種目・競技ばかり。これだけ思い返せるということは、見方を変えればいかに授業が充実していたかを物語っています。体操から陸上、水泳、球技にいたるまで日本の“体育教育”は実にバラエティー豊か。しかも、「跳び箱○段」、「○秒で走る」、「懸垂○回」など、きっちりとゴールが設定されているという点で立派な“教育カリキュラム”だったな、と今になってつくづく感心してしまいます。
 しかしその反面、「逆上がりができない」「25メートル泳げない」というだけで、自分は運動ができない子なんだと深く劣等感を植えつけられてしまい、スポーツそのものが嫌いになってしまった子どもたちも少なくないのではないでしょうか。

 今回は、スポーツ大国と呼ばれるアメリカでその“体育”がどのように行われているのかを、日本と比較しながらお伝えしようと思います。アメリカといっても州や都市によってまったく内容が異なりますので、ここでは「イリノイ・シカゴ界隈の公立校」という前提でお読みください。

小学校体育は遊びの延長線上

 アメリカに転校した日本人の子どもたち(やその親)が一番にショックを受けるのが、実は“体育”の授業だった、というのはよく耳にする話です。アメリカの体育(PE:Physical Educationの略)の授業は、日本のように各種目・競技を掘り下げて目標達成のために“練習”するのではなく、ひたすらゲームやかけっこ、ダンスといった“遊び”のような内容であることが多く、また特別に体操着に着替えることもなく授業は毎日あるので、まるで休み時間の延長のようなもの。日本の小学校で“カリキュラム”を経験した子どもにとっては、アメリカの体育の授業はまるでゲーム大会のように感じる、というのもうなずけます。
 しかしその一方で、子どもたちにとっては「○○できなければいけない」という強迫観念から解放され、苦手意識にさいなまれることなく自由にのびのびと好きなことができるところが、アメリカの体育の利点だといえます。

“戦い”の要素がうすい、あっさり運動会

(Tribocal.com photo by Katie Leimkuehler)

 「運動会」もあるにはありますが、きわめてさっぱりしたもの。日本人の親から見れば「ぶっつけ本番のゲーム大会みたい」だそう。もちろん、「運動会の予行演習」など、あるはずもありません(笑)。また、紅白に分かれて戦ったり、個人のかけっこ競争などもありません。アメリカは多人種国家。生まれつき体格が違う異人種の子どもたちを競争させること自体に意味がないのでしょう。それよりも、体を一緒に動かして競技に参加し、楽しむことが第一と考えているのです。

 会場のあちこちでは綱引き、三輪車リレー、障害物競走、ウォーターバルーンの投げ合いなどの各競技がバラバラに繰り広げられ、アナウンスや音楽もありません。しかも、家族は自由参加のためほとんど見に来ないので、我が子をビデオ撮りするために会社を休む親もいません(笑)

ありとあらゆる競技を体験し、学ぶ中学〜高校

 しかし、この“ゆるい体育”も小学校卒業まで。ジュニアハイ(中学校)になると環境は一変します。授業内容は本格的になり、バレーボール、ドッヂボール、フォールドホッケー、フットサル、中距離走などさまざまな競技をやりながら、それらのルールなども学ぶようになります。
 これは他州の例ですが、体育の授業で「マイナーなスポーツをしよう月間」が設けられ、ゴルフ、フリスビー、アーチェリー、ボウリングなどを月替わりにやった学校もあるとか。さらに面白いところでは、ウェストバージニア州の全公立学校が体育のフィットネスの授業に、かの有名なダンスゲーム『Dance Dance Revolution』 (DDR) を導入した、という話もあります。必修科目でDDRとは、まだ“ゆるさ”が抜けていないような気もしますが(笑)、DDRで子どもの肥満が解消されたという報告もあり学校側はいたって大真面目なようです。

 クラブ活動が始まるのも中学からですが、アメリカの学校の部活動は日本のそれとは大きく異なります。日本では転部しない限り卒業まで同じ部で過ごしますが、アメリカではシーズンごとに競技が替わるのです。例えば、春〜夏は陸上競技やテニス、秋〜冬はバスケットやサッカーなどという具合。シーズンオフには、個人で地元のチームに入るなりして、活動します。部活の種類は実に多種多様で、アメフト、サッカー、クロスカントリー、ゴルフ、スイミング、バレーボール、バスケットボール、ボウリング、体操、レスリング、バドミントン、野球、ラクロス、ソフトボール、テニス、陸上競技、ウォーターポロなどなど。ひとつの分野に限らず、幅広くより多くの可能性を見つけるチャンスが与えられているという点では、とても贅沢でうらやましい気がします。このフレキシブルさが、“夏はMLB(プロ野球)の選手、冬はNFL(プロ・フットボール)の選手”を生み出す土壌になっているのかもしれません。

即戦力のみ入部が許される。シビアな“トライアウト制”と学業との両立

学校以外でも地域のリトルリーグで腕を磨く
(photo/ 馬場邦子)

 しかし、このクラブには誰もが入れるというわけではありません。入部するにはまず、「トライアウト」と呼ばれるいわゆる“入部試験”を受けてパスしなければならず、これに落ちると入部すら許されないのです。超マイナーな部なら定員不足のため初心者でも入部できるチャンスもありますが、アメフトや野球など人気のクラブともなると、初心者での入部はまず不可能。“完全実力主義”の厳しい壁が立ちはだかります。逆に言うと、初めにふるいにかけられるので年功序列は存在しません。先輩が絶対的権力を握り、一年生は掃除係と素振り、球拾いのみ、などということもありえないわけです。実力さえあれば、一年生でも即戦力として対等に扱われます。アメリカの体育における「平等」は、日本のように“力を平等に発揮すること”ではなく、“力を発揮する場を平等に与えられること”だと聞いたことがありますが、言い得て妙。まさにそこが日米の根本的な違いといえるでしょう。平等に与えられたチャンスを勝ち抜いた者に、努力次第でさらなるチャンスが訪れるのです。

 そうはいっても部活はあくまでも部活。決して学業を疎かにしてはいけないのが厳しい掟。めでたくトライアウトに合格して意中のクラブに入部し活動中であったとしても、学業で規定以下の悪い成績をもらうと即刻退部を命ぜられます。たとえそれが、主力選手だったとしても一切酌量の余地なし。決められたことは例外なく守り、守らせる。この徹底ぶりが、意外と聞き分けのいい(諦めの早い?)アメリカ人の根本を築いているのかも、などと思ってしまいます。

すべては親の熱意とバックアップがあってこそ

親たちも「臨時コーチ」として子どものチームを手伝う。 中には兄弟のチームをかけもちしているほどの熱心な父親も。
(photo/ 馬場邦子)

 人気の部に入りたいけれど経験がない、そんなときはどうすればいいのでしょうか?
 その方法のひとつは、「地元のスポーツクラブに早くから通って練習を積んでおく」。これに関しては、第1回目でご紹介した「Park District(パーク・ディストリクト:PD」が主催する各種スポーツ教室が大きな役割を果たしています。
 ふたつ目は、「親が子のために個人コーチを雇う」。いわゆる“スポーツの家庭教師”ですが、もちろんどの家庭でもできる方法ではありません。競技の専門コーチはアメリカでは“ドル箱”職業。学校や個人をかけもちしている人気コーチもいるそうですから、いかにスポーツが子どもの将来にとって大事な位置づけにあるかかがうかがえます。子どもたちの才能と努力のみならず、親たちの熱意と金銭的バックアップがなければ、同じ出発点に立つことすらできない。これもいかにもアメリカらしいといえばらしいところでしょうか。

次回予告

次回は、「2ヶ月に及ぶアメリカの夏休み。部活やサマースクール、サマーキャンプなどなど、子どもたちの夏休みの過ごし方」についてお届けします。どうぞお楽しみに!

長野尚子(ながのしょうこ)さん
長野尚子(ながのしょうこ)
アメリカ在住フリーライター。2001年、大手出版社のディレクターを退職後、単身アメリカへ留学。その後帰国し子育て関連誌の編集者を経て、結婚を機に2006年3月より再びカリフォルニア州バークレー市へ。主に教育・子育て、国際文化交流をテーマに人脈を広げながら執筆活動中。2007年10月よりシカゴ郊外に移る。3年間の留学生活を綴った「たのもう、アメリカ。 」(近代文芸社)発売中。

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